【西陣織九寸名古屋帯】
―飛雲文―
制作/洛風林


｢ 真実に美しいものは、常に新しい｣　洛風林の信条でもあり、洛風林の持つ美意識を体現するこの言葉、まさに洛風林の本質を言い表していると言っても過言ではない。　古（いにしえ）の意匠/designを範として創作をしながらも常に文様としても完成度を追求し続け、本物とは何かを求め続けるそのひたむきな姿勢はまさに温故知新そのもの。　「故きを温ね新しきを知る」　先人の織、過去の染織を鑑みて美しいと閃いた事項を掘り下げ調べ、さらに思考を深め、積層した知識を自社の織物として再構築する、美しくない筈がない。　いまの西陣でここまで「美」と向き合っている機屋はそれほど多くはない。


陶芸家の河井寛次郎、随筆家の白州正子、人間国宝の棟方志功など、多くの文化人と触れ合うことで審美眼を磨き、世界各地を旅する中で洋の東西を問わず染織に目を向け、欧州や中東における染織工藝品を蒐集し、それらを範として創作の礎としたのです。　こうした工藝的な染織に関心をお持ちの方でしたらすでにご存じの方も多いと思いますが、帯地の制作にあたり洛風林自体は自社で機（はた）は持たず、いわゆる「洛風林同人」と呼称される西陣の機屋に製織を依頼しています。 1980年でしたかに発行された「工芸帯地洛風林百選」には洛風林同人として下記の名前が記されています。


洛風林同人（製織機業家/順不同）

鷲猪越 三五郎 / 勝山 実夫 / 勝山 嘉夫 / 高尾 弘 / 牛窪 信子 / 山代 善三 / 八木 生次 / 遠藤 政治郎 / 北村 武資 / 木村 登久次 / 三上 嘉義 / 南 昭行 / 南 貞行 / 宮島 勇 茂木 功 / 清水 治之助 / 清水 茂勇 / 広瀬 健二

本品に銘されたのは「飛雲文」　永遠（とわ）に流れゆく紋様が続けて表現されることから、古来より日本の吉祥紋様として、また、西陣では伝統的な古典柄としていつの時代も織り続けられてきました。　雲流や瑞雲など、雲を題材とした意匠（とりわけ雲の形でしょう）は図案によってはややもするとどこか可笑しみ覚えて目に映ることもあるのですが、背景をボルドー色としながら、あえて配色を江戸好みとしたことで眺める角度ではどこかエミール・ガレを想わせます。　古より伝えられてきた伝統的な西陣織の表情とはどこか異なるこの飛雲文は何かを範とした意匠ではなく、洛風林のオリジナル。　眺めていて思うのは、こちらの飛雲文、バランスが極めて見事なこと。　何がどうなのか、つまり、過剰な装飾性が見当たらないんです。　やり過ぎていない、もっと平たく言えば着物に合わせて初めてその帯が成立する、つまり主張し過ぎていないから、帯だけが悪目立ちをすることがない、その辺りの匙加減が実に巧みなのです。　何にでも言えることなのですが、あえてそこは「間」をおいてある、その加減が巧みなのです。　　


附下や色無地に合わせていただいても、あるいはまた江戸小紋に合わせていただいても、無地感覚の結城紬や、御召にあわせても…、余所行き感から、略礼装、礼を想わせる装い迄巾広くお使い頂けます。