桃咲きて
些事は忘れて
しまひけり
須藤美智子
風土
【江戸友禅九寸名古屋帯】 制作/久呂田明功
―桃― 手描き 古代縮緬地
江戸友禅、たとえば下絵を露草の花汁を用いて描く、防染の糊は糯粉で作る事、糊に程よい柔らかさを保つように荒塩を混ぜる、などなど江戸友禅の技法的な特長はいくらでもありますが、それらをいくら語ったところで江戸友禅の魅力をお伝えすることにはなりません。 友禅の頂点を描きたいと、友禅士が見出してきた技法も時代の移り変わりと共にと変りつつあります。 時代が許さないのはなにも染織ばかりではありませんが…。 いまでも残されている特長は分業の京友禅と違い友禅士が一人で染め上げるところかもしれません。(もちろん厳密に言えばそうでない事もありますが)それゆえに江戸友禅の作品には職人の個性が良くも悪しくも表れるのです。 75点主義のお品はありません。 評価されるか否か。 厳しい世界でもあります。
さて、こちらに掲載いたしました江戸友禅九寸名古屋帯、三代久呂田明功氏の手描きによる作品です。 ひと目見てお判り戴けますようにいかにも江戸友禅然とした意匠、構図、彩色です。 第一印象で言えば、江戸友禅以外の何物でもない、それほど古典的な友禅が施されています。 彩色も江戸友禅特有でなんとも魅力的な発色です。 もっと言えば江戸友禅でないと出せない、そう言ってしまっても決して言いすぎではない美しさです。 友禅を見慣れない人には京友禅との区別が判らないのかもしれません。 そもそも友禅そのものがよく判らない、と言う方も居られるかもしれません。 友禅そのものについて書き始めますと取り留めのないものになりますので友禅そのものについては検索して頂くこととして…。
描かれたのは「桃」です。 ご存知のように桃の花は春を告げる美しい花の一つです。 「桃」という字は、木へんに「兆」と書きます。 この「兆」には非常に多い数という意味があり、とても多くの実がなる木、つまり繁栄に通じるとされています。 また桃は万葉集にも多く詠まれていますね。 「桃花褐(つきそめ)の浅らの衣(ころも)浅らかに、思ひて妹(いも)に逢はむものかも」 や「さらばまたやよひ三日の月の影はやさしそへよ桃の盃 」 「桃の盃」とは如何にも風流な感じを想わせます。 この日に桃の花を酒盃に浮かべて飲む、それは邪気を祓い長寿を招くという意味があったようです。
眺めているとアンティーク然とした風情が漂います。 やはりその印象は古代友禅と言った方がわかりやすいかも知れません。 古(いにしえ)の染色のような趣が在るのです。 制作者の久呂田明功氏が、どのような想いでこうした彩色とされたのか、それを推し量ることは出来ません。 でも、明らかに明確な意図をもって「色」が注されたことは疑いようもなく、且つ江戸友禅としてのつぼが押さえられているのです。 見るほどに彩色の妙を知り尽くした染色家の英知の仕業だとわかります。 …然し美しいですね。。。 どれほど長い時間を掛けて眺めていてもその印象が揺らぐことはありません。 それどころか眺めているほどに 唯々ため息が零れてしまうのです…。 多くの江戸友禅とは確実に一線を画した極めて魅力的な染め物ではないでしょうか。 参考までに三才山紬と勝山さと子さんの綾織に適わせてみました。 江戸小紋や色無地、軽い附下に適うのは申し上げるまでもないのですが、こうしたカジュアルな紬に適わせても素敵だと思います。
商品番号 |
SJE-KRK-36 |
商品名 |
手描き友禅/九寸名古屋帯 久呂田明功作 桃/古代縮緬地 |
品質 |
絹100% |
価格 |
¥363,000 (表地/税込) ¥374,500 (芯仕立て上げ税込) ※一級和裁士による手縫い。 ※お仕立てに要する日数はご注文確定後 約2週間~20日戴いております。 |
巾/ 長さ |
※お仕立て上がりの際のサイズは帯巾・八寸~八寸二分程。/ 長さは九尺七寸~八寸程。多少の変更は出来ますのでお訊ねくださいませ。 |
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