■有松絞り/天然藍染め
―段杢目縫い絞り―
絞り/藤田幸子
染め/本藍染め
生地/明石紗紬


この絞り染め、よく見掛ける絞り浴衣とはちょっと異なった雰囲気/表情を保っている事が画像からも伝わっているかと思います。　こうした浴衣も興味の薄いひとにとっては、たかが浴衣なのかもしれません。　唯、たかが浴衣なのですが、日本の職人の「手」によって括られ、絞られたこの浴衣を眺めていると、興味の薄い筈である人でさえ、心のどこかを魅了され、思わず手に取りたくなるようです。　「染織工藝品」としての雰囲気を漂わせ、浴衣以上の質感を呈しているのです。　それは伝承され続けて来た古典的で極めてオーソドックスな絞り染めだけが保つ質感なのだと思います。　

こちらのお品は木綿ではなく、明石紗紬を使い、更に「絞りの手」・「藍染めの手」を特に指定し、一点一点、絞り元に依頼した工藝絞りのお品となります。　わざわざ「工藝絞りのお品」とお伝えしましたのはよくある有松絞とはその成り立ちがまったく異なるものとなるからです。　確かにこちらも有松にて絞られた有松絞りと言うことに違いはありません。　唯、こちら、現在ではほぼ途絶えてしまっている「絞り染色技法」を用いて一点一点創作された「工藝品」としての「有松絞り」なのです。


つまり、古来から伝わる絞り技法を用いて、天然藍で染める、とした工藝染織品となるのです。　機械絞りや、国外に作業を依頼して絞られた産業品/量販品とはその性質がまったく別なものとなる訳です。　どちらが良いかと言うお話ではありません。　産業として考えるなら、こうした「工藝絞り」は存続すら難しいものとなります。　コストを計り、量産を計らなければ、伝統産業は立ち行かなくなります。　現在、有松絞りが四百年もの伝統を続けているのは、そのほとんどが産業として量産が計られ、生産が計れているからに他ならないのです。

さて、こうした工藝絞りをどのように愉しむか、それは装う方の感性次第です。　ご参考までに澤田麻衣子/型絵染め※ほうずき、絞り染め※蜻蛉、手描き友禅※瓢箪を適わせてみました。
画像にて、この絞りが保つ質感のすべてをお伝え出来る筈はありません。　また、お伝えし得ない程に丁寧に括り絞られたものです。　お色も撮影の時間によって様々に藍は濃淡、色みを変えます。　　実際にお手に取ってご覧頂きますと、その見事な仕事に目を奪われるほど、と添えさせて頂きます。